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2020/10/26

「自転車通勤」制度化の裏側

当社では、7月から自転車通勤を制度化しました。既に複数のメディアから問い合わせが来ていることからも分かるように、“密”になりやすい電車やバスを回避できる手段として、自転車通勤への注目度はますます高まっています。しかし、制度化には多くのハードルが存在することも事実です。当社の制度がそうした問題をクリアすべくどのように設計されたのか、人事担当者が解説します。
【参考】プレスリリース(2020年6月30日発表)
自転車通勤を制度化、日額200円の手当も支給

〈解説者〉
人事部 新井 真之介

2018年12月入社。人事労務を担当。前職は社会保険労務士事務所に勤務し、企業の制度設計などを支援してきた。趣味は登山とサイクリングで、社内の自主サークル「自転車部」にも所属している。

社員の要望をコロナ禍が後押し

7月の制度化以前は、健康上の理由などによって電車での通勤が困難な場合にのみ、例外的に自宅から会社までの自転車通勤を認めていました。社員の要望としては1年ほど前から声が上がっていましたが、事故のリスクなどを考えると導入が難しかったのです。

ところが、今年1月頃に実施した社内アンケートで「ぜひ導入してほしい」「制度があれば利用してみたい」を合わせると約30人が自転車通勤を希望。一定のニーズが確認されたことに加え、その後のコロナ禍で通勤電車を回避する必要性が高まったことで、一気に制度化へ踏み切りました。

課題クリアのためのルールづくり

当社の制度は、自宅から会社までの通勤について、特別な理由がなくても自転車の利用を認めるものです。効果として期待しているのは、自転車での通勤が適度な運動やリフレッシュになり、心身の健康維持につながること。また、満員電車による“痛勤”から解放され、新型コロナウイルス感染のリスクも軽減できることです。

しかし、制度化にはいくつかの課題もありました。最も大きかったのは、事故のリスクがあること。そのため、保険加入やヘルメット着用といったルールをどこまで厳しいものにするのかを特に悩みました。また、社会的には駐輪場の確保や通勤交通費の扱いなども課題として挙がっています。当社では利用者に対して「自転車通勤手当」を支給するので、通常の通勤手当と重複しないように考える必要がありました。

<制度利用の主な条件>
●安全教育テストへの合格
制度化にあたり一番留意したのが「交通事故防止」についてです。当社では、安全教育として警視庁の「自転車安全教室」サイトでクイズに正解して合格証をもらうことを条件にしています。また、それに加えて自社独自の問題も作成。交通の知識だけでなく、事故のリスクなども正しく理解してもらうための取り組みです。

●対人2億円以上を補償する保険加入(証書の写しを申請時に提出)
補償金額は、事故の際の賠償額で1億円以上の判例もあることを踏まえて決定しました。最近では自治体によって自転車保険への加入が義務付けられていることもありますが、個人で加入する保険は日常生活全般が対象となります。通勤だけでなく、途中の寄り道や休日の私的利用もカバーされるため、保険費用は個人の負担としました。

●対象距離は2km以上20km未満
「2km以上」は、公共交通機関による通勤手当の支給対象と同様です。「20km未満」については、大多数の社員が当てはまる上に、通勤時間としても自転車に乗る時間としても許容範囲であり、逆にこれ以上距離が長くなると危険が増すと考えました。

●駐輪場の確保
当社の場合は、オフィス周辺に十分な数の駐輪場が存在することが確認できたことや、利用者数が予想できなかったことから、会社として一定数を契約する形ではなく、個人が確保した上で制度を利用するルールとしました。

上記以外にも、防犯登録された自転車であることやヘルメットの着用、通勤での利用に限ることといった条件を設けています。
※ 自宅から最寄り駅までの自転車利用は以前から認められており、距離が1km以上の場合には毎月1ヶ月分の駐輪場代を支給しています。今回の制度化により、最寄り駅までの自転車利用に対しても同じ条件を課しました。

<手当について>
当社では、利用した日に応じて日額200円の「自転車通勤手当」を支給しています。「日額」にすることで、天気や気分に応じて電車を利用することも可能に。公共交通機関を利用した場合の通勤手当も実費支給なので、手当が重複することはありません。

「200円」という金額は、オフィス周辺の駐輪場価格相場に、タイヤなどの消耗品にかかる維持費用を上乗せしたものです。他社事例や、自転車部メンバーの意見からも、妥当な金額だと考えています。

制度化のハードルを乗り越えるのは、簡単ではありません。当社の場合は、自転車活用推進官民連携協議会が公開している「自転車通勤導入に関する手引き」を活用したり、社会保険労務士など専門的な知識を持つ人に相談したりしたことも、1か月程度での制度化を実現できた要因となりました。

中には厳しい条件もあり、社内手続きもやや煩雑ではありますが、7月以降徐々に利用者が増え、現在は4人が自転車通勤をしています。今後は安全教育を徹底するために、テストの拡充や利用者への個別研修、自転車部による実地研修などを検討中です。利用者の負担が軽くなるよう、自転車ショップやシェアサイクルなどと提携することも視野に入れています。

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